私、奥崎慎太郎が大阪・堺で会社を興したのは2010年。21歳の時です。それから15年、治療院・サロン・クリニックを中心に350社の現場に入り続けてきました。営業として治療院に飛び込み始めた時期から数えれば、ちょうど20年が経とうとしています。

結論から書きます。この20年で、私自身が捨ててきた幻想が5つあります。 同じ幻想にしがみついたまま2030年代を迎えると、中小企業経営者は本当に苦しくなる。今日はその5つを、現場で見てきた具体例と一緒に書きます。AI時代に経営をどう組み立て直すかの、私なりの一次情報です。

  • 「自分が頑張れば伸びる」幻想
  • 「いい商品があれば売れる」幻想
  • 「人を雇えば楽になる」幻想
  • 「IT・AIは難しい」幻想
  • 「一発逆転で勝てる」幻想

順番に書いていきます。

幻想1:「自分が頑張れば伸びる」幻想

私は20代の頃、文字通り朝から晩まで動いていました。営業に出て、夜は提案資料を作り、土日も顧問先の治療院のチラシを直していました。働いた分だけ売上が伸びる時期は、本当にあるんです。年商が500万円から3,000万円くらいまでは、社長が走り回れば数字が積み上がる。

でも、ここに落とし穴があります。私自身、29歳の頃に体を壊しかけました。月100時間は当たり前、150時間でようやく回るような状態。気づいたら、会社は私という個人に完全依存していました。私が3日休めば売上が止まる構造です。

それから、自分が頑張ることを諦めました。代わりに「自分が休んでも回る仕組みを作る」ことに脳のリソースを全振りしました。営業フローを言語化し、提案資料を共通テンプレ化し、顧客対応をマニュアル化する。最初は売上が伸び悩みます。当然です。私が現場に出ない分、短期の売上は落ちる。でも半年経った頃から、私が動かなくても伸びる構造が立ち上がりました。

治療院の現場でもまったく同じ景色を見てきました。350社のうち、本当に伸びる院はどこか。院長が施術ベッドから降りた院です。月100万円の売上の壁を破れない院長は、ほぼ例外なく「自分が一番施術がうまい」「自分がやらないとダメ」と言います。でも、月300万円、500万円を超える院は、院長が施術から離れて経営者になっている。

AI時代において、この幻想はもっと厳しい結果になります。なぜなら、個人の頑張りで稼げる金額には天井があるからです。一日24時間、施術1時間1万円なら最大24万円。これが個人の限界です。でも仕組みで稼ぐビジネスには天井がない。これからの10年、個人プレーヤーと仕組みプレーヤーの差は、加速度的に開きます。

私が今、年商10億、最終的に100億グループを2034年までに作ろうとしているのは、この幻想を完全に捨てたからです。自分が頑張る経営は、もう私はやりません。

幻想2:「いい商品があれば売れる」幻想

これは私自身が20代の頃に最も信じていた幻想です。「うちは技術がある」「うちのサービスは他社より優れている」。治療院でも本当によく聞きます。「他院よりも腕がある」「他院では治らない患者を治してきた」。

事実そうかもしれません。でも、患者が来るかどうかは、それとは別問題です。いい商品が売れるのではない。「いい商品だと伝わるストーリー」を持った商品が売れるんです。

これに気付いたきっかけは、堺市内の腰痛専門院でした。技術力は地域トップクラス。院長の臨床経験は20年以上。でも来院数が伸びない。私はその院のHPとLP、Google口コミ、Instagramを全て見直しました。問題は明確でした。院長の凄さが、一行も書いていなかったんです。「丁寧な施術」「お一人お一人に寄り添う」という、どの院でも書いてある言葉だけ。

そこで私は、院長に20時間ヒアリングしました。何を学んできたか、どんな患者を治してきたか、なぜこの治療法に辿り着いたか。それを全部、サイトに書き直した。半年後、新患は2.4倍になりました。施術は一切変えていません。伝え方を変えただけです。

これはサービス業だけの話ではありません。製造業でも飲食でも、IT受託でもコンサルでも、全部同じです。商品の質は最低条件であって、勝負は「伝わるかどうか」で決まる。

AI時代において、この差はもっと露骨になります。生成AIで「なんとなく良さそうな商品」は無限に作れる時代です。情報過多の中で、消費者は「商品の良さ」ではなく「腹落ちするストーリーがある商品」を選びます。私がコードアシストというAI×Web制作スクールを立ち上げた時、最初にやったのは「なぜ私がこれを教えるのか」のストーリー化でした。技術は他にもっと詳しい人がいる。でもストーリーで負けない設計をした。

「いい商品なら売れる」と思っているうちは、商品の質を上げることに時間を使います。でも経営者の本当の仕事は、「伝わる構造」を作ることです。これを20年かけて、私はようやく腹落ちさせました。

幻想3:「人を雇えば楽になる」幻想

これは、私が30歳の頃に痛い目を見た幻想です。当時、社員を一気に5名雇いました。「これで自分は経営に集中できる」と思った。結果はどうなったか。3ヶ月で全員が機能不全です。

何が起こったか。指示が抽象的すぎて社員が動けない。判断基準が共有されていないから、社員が判断するたびに私のところに確認が来る。結果、私は社員5名分の確認業務に追われ、自分の時間がゼロになる。雇う前より忙しくなりました。3名退職して、私は3000万円の損を出しました。

そこから学んだのは、「人を雇って楽になるのではない。仕組みを作った後に人を雇うから楽になる」という順序です。

仕組みとは何か。具体的には3つです。 1. 判断基準のルール化:何が「OK」で何が「NG」か、社員が私に聞かなくても判断できる基準書 2. 業務の手順化:誰がやっても同じアウトプットが出る作業フロー 3. 数値の可視化:日次・週次でKPIが自動で見える状態

この3つが揃って初めて、人を雇うことが「レバレッジ」になります。揃っていないと、雇うほど経営者は忙しくなる。

治療院の現場でも全く同じです。スタッフを5名6名雇って疲弊している院長を、私は何十人も見てきました。逆にスタッフ20名でも院長が悠々と経営している院もある。差は「仕組みの有無」しかない。技術や人徳の問題ではないんです。

AI時代の今、この幻想はさらに危険です。なぜなら、AIで自動化できる業務が爆発的に増えているから。人を雇う前に、まず自動化を試す。それでも残った業務だけ、人に任せる。この順番を間違えると、雇った後に「これAIで全部できたじゃん」となる。私は実際に、社員10名の事務作業の8割をAIで自動化した経験があります。残り2割は人にしかできない領域だった。

「人を雇えば楽になる」は嘘です。「仕組みを作って、自動化して、それでも残った仕事に人を当てる」のが、これからの経営です。

幻想4:「IT・AIは難しい」幻想

これは、私と同世代以上の経営者が、本当によく言う言葉です。「うちはアナログだから」「ITは詳しい人に任せている」「AIなんて何ができるかわからない」。

私はこれを聞くたびに、内心「やばいな」と思っています。20年前、PCが使えない経営者が「私はアナログだから」と言っていたのと、構造が同じだからです。

私は2025年から、自分の会社の業務を徹底的にAI化しました。会計、営業資料作成、提案書作成、顧客分析、SNS投稿、ブログ執筆、デザイン制作、社内会議の議事録、タスク管理。ほぼすべての業務にAIが介在しています。 結果、社員一人あたりの生産性が3倍になりました。

ここで言いたいのは「AIすごい」じゃないんです。「AIは思っているほど難しくない」ということ。

実際、私が運営しているコードアシスト講座には、50代60代の経営者の方も多く来られます。最初は「生成AIなんて触ったこともない」というところから始まる。でも3ヶ月後には、自分の業務をAIで回せるようになる方が大半です。彼らに共通するのは「先入観を捨てた」だけ。

「IT・AIは難しい」と言っている経営者は、3年後、5年後にどうなるか。AIを使いこなす同業他社に、コスト構造で完全に負けます。同じサービスを、競合は3分の1のコストで提供できる。価格競争で勝てない。これが現実です。

私が350社の治療院を見てきて、伸びる院とそうでない院の差が、最近はっきり「AI活用の有無」になりつつあります。問診票をAIで自動化した院、口コミ返信をAIで効率化した院、SNS投稿をAIで仕組み化した院。これらは院長の時間が空き、施術と経営に集中できる。一方、全部手動で頑張っている院は、院長が消耗してそのうち閉院していく。

難しいから後回し」が一番リスクです。AIは2年後、もっと難しくなります。今、触り始めるのがコストが一番低い。これは断言します。

幻想5:「一発逆転で勝てる」幻想

最後の幻想です。これは経営者に限らず、起業を志す人ほど信じやすい。「ホームランを打てば一気に変わる」「バズれば人生変わる」「資金調達できれば全部解決」。

私は20代の頃、これを信じていました。年商を一気に10倍にしてやろうと、無謀な広告投資をしたこともあります。結果、損失だけ残りました。

15年やってきて分かったのは、経営は単打の積み重ねでしか勝てないということです。月10万円の改善を12ヶ月続ければ年120万円。それを5年続ければ600万円。10年で1,200万円。これが、本当に効くお金の作り方です。

ホームランは狙わない。バントとシングルヒットを延々と積む。これが私の経営の基本姿勢になりました。

治療院の現場でも、本当に伸びている院は派手な施策を打っていません。地味な改善の継続です。Google口コミを毎月3件積む。問診票を毎月1問ずつ磨く。LINEの返信スピードを毎週0.5秒短縮する。こういう積み重ねを5年やった院が、結局一番強い。

私が2034年に100億グループを作ろうとしているのも、ホームラン狙いではありません。月商1億円の事業を10個作るという、極めて地味な計算です。1事業あたり月商1億円なら、業界によっては中堅企業の規模感。それを10個積み上げる。派手さはゼロですが、再現性が高い。

AI時代になっても、この本質は変わりません。むしろAIで一発逆転が容易に見える時代だからこそ、地味な積み上げをできる経営者が圧倒的に強くなります。バズの再現性はゼロ。でも仕組みの再現性は100%。

経営者として40代を迎える私が、20代の自分に伝えたいことは一つです。「一発逆転を狙うな。毎日の単打を100本積め」。これだけです。

H2-5:よくある問い

Q1. 5つの幻想を全部捨てるのは現実的に可能ですか?

一気には無理です。私自身も15年かけて、ようやくここまで来ました。重要なのは順序で、私のおすすめは「幻想3→1→4→2→5」の順です。まず仕組みを作って人を活かす(3)、自分の頑張りに頼らない(1)、AIで自動化を進める(4)、伝わるストーリーを磨く(2)、地味な積み上げに集中する(5)。これで2~3年あれば、経営の景色がかなり変わります。

Q2. 治療院以外の業種でも当てはまりますか?

完全に当てはまります。私はWeb制作350社のうち、サロン、クリニック、飲食、建設業、士業、教室業も支援してきました。業種を超えて、経営者の幻想は驚くほど共通しています。むしろBtoBの企業ほど「いい商品があれば売れる」幻想が強い印象です。

Q3. 一人会社・小規模でも仕組み化はやる意味がありますか?

むしろ一人会社こそ最優先です。一人だからこそ、自分の時間が会社の生命線。AIと自動化で月40時間でも空ければ、その時間を「自分にしかできない仕事」に投下できる。これが3年後の成長率を決めます。

Q4. AI活用、何から始めればいいですか?

最初は「自分の業務日報を毎日30分かけて書いている」のような、定型業務からです。それをAIに置き換える。私の場合、最初に置き換えたのは議事録と提案書テンプレでした。一つ自動化に成功すると、次が見えてきます。「完璧に作ってから導入」ではなく、「雑に試してから磨く」のが鉄則です。

Q5. 奥崎さんが2034年100億を本気で目指す理由は何ですか?

正直に言うと、お金がほしいわけではありません。堺の中小企業経営者に「ここから100億までいける」というロールモデルを残したい。これが本音です。地方の中小企業から、グループ100億までの再現性ある道筋を作る。これが私の40代でやり切りたい仕事です。


著者プロフィール

奥崎 慎太郎(おくざき しんたろう)

株式会社SOFI 代表取締役 / コードアシスト主催。1990年2月17日生まれ、大阪府堺市出身。2010年、21歳で起業。治療院・サロン・クリニック特化のWeb制作・MEO・LP設計を中心に、15年で350社を支援。現在は地域中小企業向けAI活用支援、Web制作スクール「コードアシスト」運営、PageMate(月額サブスクHP/LP事業)の3事業を展開。2034年までに年商100億グループを作ることを公式目標として掲げる。